(映像は大田区議会ホームページより:23分)
【黒沼議員】
日本共産党大田区議団の黒沼良光です。一般質問を行います。
住民本位のための大田区行政デジタル化について
【黒沼議員】
まず、大田区政のデジタル化についてです。松原区長は、予算案発表の挨拶でも、「利便性の向上と感染症拡大防止のためのデジタル化推進に力を注いでまいります」と、感染拡大防止をデジタル化で解決できるかのように述べています。これは、日本の財界と菅政権が述べている、技術革新によってバラ色の未来が待っているという生産手段の発展のみ一面的に描き出し、コロナ禍もデジタル化で乗り切れるかのように言いながら、真の狙いは、マイナンバーを用いたデジタル化で個人データの管理を強め、社会保障の削減をし、財界の巨大な利益を上げようとする狙いに菅政権が応えるものです。大田区の予算も政府と同様に組み立てられていると言えます。
それは、菅政権が今国会で成立させようとしているデジタル関連6法案の中で大きいのは、個人情報保護法を改変しようとしていることです。これまで個人情報保護法と行政機関の個人情報保護に関する法律、独立行政法人保有の個人情報保護に関する法律の三つに分かれていますが、統合が狙われています。マイナンバーを基軸にあらゆる個人情報が統合されようとしています。今は、個人情報は国、地方公共団体、医療機関などが分離管理されていますが、個人情報が集約されれば、行政機関があらゆる個人情報にアクセスできるようになる可能性があります。現在、行政が保有する個人情報は、国の個人情報保護法と地方公共団体の個人情報保護条例の二重構造で保護されています。今回は、これを統一化、標準化して、情報管理システムも統一化しようとするものです。
私たち国民は、個人情報を把握されている、行動を監視されていると感じれば、自由な発言や調査研究をすることができなくなります。ひいては自由な議論を前提とする民主主義も破壊されかねません。しかし、これだけを押し出すと国民の合意が得にくいので、持続可能な地域や都市をつくる、環境や貧困、医療、福祉の持続のためのSDGsと言って正当化を図ろうとするものです。しかし、SDGsの17番目が官民連携です。環境破壊や貧困を引き起こした張本人の多国籍企業がパートナーシップとすることで正体が見えてきます。今回のように、資本主義的に使用されると技術革新の成果が財界に所有され、悪用され、正反対に人間に悪影響を及ぼすことになります。
大田区の今年度の予算編成の重点課題の一つに「『新たな日常』を意識したデジタル化の一層の推進」とあります。新型コロナウイルス感染拡大の危機を克服した先にどういう日本をつくるかは、こうした財界の求めるデジタル化により、社会保障を切り捨て、自己責任を押しつけてきた新自由主義を終わりにして、人々が支え合う社会、連帯を大切にする社会をつくることだと考えます。特に、第一の教訓として、ケアに手厚い社会をつくることです。コロナは社会保障体制の脆弱さを浮き彫りにしました。歴代政権が医療、公衆衛生、介護、障害福祉、保育などの分野で人手不足の慢性化に見られるように、ケア労働を粗末にしてきました。こうしたことで、危機が起これば今回の縮小してきた保健所体制のように崩壊寸前になるのは当然です。
●そこでお聞きします。コロナ禍の最大の教訓は、非常時に対応できる余力と備えを基本とする、人間が生きていくのに必要な制度は常時備えるケアに強い社会ではないでしょうか。デジタル化はその手段にすべきです。お答えください。
【企画経営部長】
非常時に喫緊の課題に対応するためには、限りある行政資源を効果的、効率的に投じることが重要でございます。いわゆるデジタルトランスフォーメーションによる行政手続きのオンライン化や、行政サービスをデジタルで完結させる取組は、区民の利便性の向上にとどまらず、行政の業務効率化が図られることにより、新たな行政資源を生み出すことにつながります。こうして生み出された行政資源は、災害などの非常時の対応も含めた、さらなる行政サービスの向上に資するものとなると考えてございます。区といたしましては、(仮称)大田区情報化推進計画を策定し、新型コロナウイルスとの共存を前提とした新たな日常を踏まえながら、区民生活に寄与するデジタル化に引き続き積極的に取り組んでまいります。
【黒沼議員】
行政のデジタル化の問題点は何でしょうか。一つは、多様で多面的な区民のニーズに応えられないということです。まず、高齢者や障害者など利用できない困難な環境や条件にある人は置いてきぼりになります。政府はサポートセンターなどでデジタルを習熟せよと求めるだけです。また、マイナンバーカードを使用しない人も排除されます。
二つ目は、2025年までにシステムの統一・標準化を目指すと言っていますが、システムの統一で自治体クラウドを使用することになり、区独自のシステムのカスタマイズはできなくなります。次のような例があります。ひとり親家庭は粗大ごみの手数料免除の対象ですが、東京都環境公社の共通システムでは、手数料減免申請をインターネットでは申込みができず、電話による申込みしかできないシステムになっています。これが本当に通じないのです。諦めさせてしまいかねません。不便極まりない制度です。まさにデジタル化の全国統一は、こういう例がたくさん生まれる危険が出てきます。
●そこで質問します。こういう人の救済策こそが必要です。お答えください。
【企画経営部長】
デジタル技術の利用が困難な環境にある方への対応などに関するご質問でございますが、国は、令和2年12月に示した将来像「デジタルの活用により、誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」に向けて、行政サービスの利便性向上のため、地域社会のデジタル化、デジタルデバイドに取り組むとしております。こうした国の動きや社会的背景を踏まえ、現在策定を進めております(仮称)大田区情報化推進計画において、区民のICT活用の支援を主要な取組の一つとして位置づけてございます。具体的には、情報通信機器の活用について基礎から学ぶ区民向け講座の開催により、デジタルデバイドの解消を進めてまいります。また、窓口におきましては、聴覚障がいのある方のための遠隔通訳サービスや外国人向けに多言語通訳サービスの提供など、窓口サービスの拡充を図ってまいります。区は、これまで行ってきた紙媒体による積極的な情報発信や、対面による窓口サービスの向上はもとより、ICT機器を活用することで、いつでも、どこでも、誰でも気軽に利用できる区民サービスを引き続き展開してまいります。
なお、国が進める自治体のシステム標準化・共通化につきましては、区民サービスの維持向上の観点を踏まえ、適切に対応してまいります。
【黒沼議員】
三つ目は、ICT化する業務が増えれば関連予算が増加するのは当然のことです。GIGAスクール政策で区が目玉の一つにしている(仮称)ICT教育推進専門員の新規配置予算765万2000円などはその典型です。社会保障、税、災害対策の3分野は現在分散して管理されていますが、分散管理による安全性を揺るがしかねません。このように個人情報漏れの危険も増大します。利便性の高さはセキュリティレベルの低さと表裏一体なんです。ドコモ口座の不正引き出しであらわになりました。
大田区のデジタル化は、手続きの便利さだけを強調し、真の目的を隠す菅政権の言いなりになるのではなく、自治体の本来の役割を果たすことです。それには、地方自治法第1条の住民の福祉の向上、憲法15条の公務員は全体の奉仕者であるという2点をしっかり位置づけた区政です。我が党は、この二つの立場から、地方政治を住民が主人公と位置づけ、住民、大田区では区民ですが、区民の利益への奉仕を最優先の課題とすることを求めています。デジタル化では、手続きの便利さだけでなく、原則は全体の奉仕者として、区職員と区民との対応と相談は対面原則にすべきです。コンビニやスマホ原則では全体の奉仕者の役割も果たせず、区民と直接接触しないで福祉の増進もありません。技術の進歩は、本来ならば働く人の負担を軽減しながら、生産力を上げ、人間社会を発展させる条件を築いていく積極的な意味を持っています。デジタル化で残業をなくし、労働時間を一気に短縮することにより、区民サービスをよりよいものにする方向にこそ求められます。
●そこでお聞きします。行政サービスは対面サービスを基本に区民の相談にも乗れるようにし、そのために職員の労働軽減にもなり、利便性を追求する手段として誰でも区政を活用できるようにデジタルを活用すべきです。お答えください。
【企画経営部長】
新型コロナウイルス感染症との共存を前提とした新たな日常において、非接触化など、安全かつ利便性の高い人に優しいデジタル技術の導入は必要であると考えてございます。区が進める情報化推進の視点には、区民ニーズに即した行政サービスの提供、ICT活用による職員能力の最大化を掲げており、既存の窓口業務においても、区民一人ひとりのニーズに合わせた対面でのきめ細やかな配慮に加え、ICT機器を活用することで迅速かつ効果的な行政サービスを提供することが可能になります。特に、RPAを活用した業務の自動処理化については、実証実験の結果、大幅な省力効果が図られており、職員の貴重なマンパワーを新たな課題へ振り向けることで、さらなる区民サービスの向上につながってございます。区は、デジタル社会の実現を通じて、区民の多様なニーズに対し、区民に寄り添った行政サービスを展開することで、誰一人取り残すことのない地域社会の実現を目指してまいります。私からは以上でございます。
羽田空港跡地開発は内需を基本に、「なかま回し」を生かした母工場都市機能としての大田区産業政策について
【黒沼議員】
次に、産業政策について質問します。東京商工リサーチによると、負債1000万円未満の2020年の倒産は630件と、前年に比べ23%増加し、2000年以降で最高となりました。消費税増税とコロナ禍による個人消費の低迷が直撃していることは明らかです。倒産の原因は「販売不振」が7割以上を占めます。「運転資金の欠乏」も昨年に比べ30.7%増えました。零細企業には資金繰り支援などの支援が十分届かなかったと見られます。
一方、資本金10億円以上の大企業の内部留保は2019年度の459億円と、2018年度から10億円も増え、過去最高を更新しました。大手電機各社は黒字でもリストラを強行し、内部留保を積み増ししました。財務大臣も「もう少し給与に回ってしかるべきではないか」と述べるほどです。
ところが、今、国会で審議されている来年度予算案で、産業経済関係は、先端半導体の製造基盤強化、ポスト5Gの開発、AI開発、自動走行、ロボットなど、特定の大企業に役立つ開発を推進しながら、中小企業の再編、淘汰に踏み出す構えです。合併・買収のM&Aを一層重視した事業承継の総合的な支援に95億円を盛り込みながら、設備投資を支援するものづくり補助金は昨年度とほぼ同額の10.4億円しか計上していません。地方公共団体による小規模事業者支援推進事業は減額という冷たさです。
菅政権の下で改組された成長戦略会議に、「日本の生産性が低いのは中小企業が多過ぎるからだ」を持論とするデービッド・アトキンソン氏が有識者として意見を表明しましたが、その意向を酌んだ予算となっています。生産性のない中小企業が日本経済の成長を止めている原因で、淘汰以外にないというのは間違いです。名古屋経済大学教授など歴任した坂本雅子氏が、製造業の海外移転と海外生産のみの拡大が日本経済に大きなダメージを与えてきたのであって、中小企業が生産性がないということではなく、これらの意味するところは産業空洞化の進行です。産業空洞化とは、直接投資を通じて生産部門が海外に移転し、国内の製造業部門が縮小・弱体化することであるが、それに加えて、雇用機会の減少、技術水準、イノベーションの停滞・低下をもたらしたが、これを政府と財界は中小企業のせいにするのです。こうして政府が進めるのは、ただイノベーション構想とデジタル化です。大田区も従っています。その典型が羽田イノベーションシティ構想だと言わなければなりません。空洞化促進政策と言えます。これを進めることは、大田区の産業がますます空洞化することになります。
●そこでお聞きします。2020年7月、大田区のものづくり産業等実態調査によると、「廃業」20.4%、「承継考えていない」34%です。合わせて54.4%です。このままでは大田区のものづくりが消えていくと見られます。大田区は、種々やっている、小規模基本法も先んじて行ってきたので改めてやることはないと、これまで答弁してきましたが、政策が不十分と言わざるを得ません。お認めになるでしょうか、お答えください。
【産業経済部長】
中小企業政策を取り巻く社会変化と政策的対応について、国は、足元で進みつつある社会変化といたしまして、少子高齢化と人口減少、雇用システムの変革、テクノロジーの進化の三つを挙げてございます。また、中小企業の現状として、大企業と中小企業の生産性格差は拡大傾向にあること、さらには生産性の低迷や企業年齢が若いほど成長率が高いことなどを示しております。
こうした中、産業のまち大田におきまして、その担い手である中小企業がアフターコロナにおいても持続可能な発展を遂げられるように、また、各事業者の声に的確に対応できるように、区は産業振興協会と緊密に連携して様々な角度から重点的かつ効果的な取組を展開してまいりました。さらに、今般開設しました羽田イノベーションシティにおけるハネダピオの機能を活用していくことで、これまで実現できなかった新たな支援策の提供や受発注環境の一層の拡充など、さらなる産業政策の強化を図ることが可能となります。区は引き続き、区内企業に寄り添いながら産業のまち大田の発展に取り組んでまいります。
【黒沼議員】
次に、提案です。施策を生み出すには、大田区が事実上捨て去った貴重な政策があります。実は1995年(平成7年)の大田区産業ビジョン「OTA戦略」にいま一度立ち戻ることが重要です。OTAビジョンには、昨今、産業のソフトの側面だけ重視され、ものづくりの実際面が軽視される傾向が見られるとして、産業集積の機能の重要さを改めて強調しています。大事なのは、大田区の産業が系列などにとらわれることなく、自由に仕事を受注し、仲間回しと呼ばれる連携生産で注文をこなしてきた歴史を持っています。これは、技術の水準は高いが単機能生産しか持ち得ていないにもかかわらず、大田区全体が一つの工場を形成していると言ってよく、これをあたかも公共財と位置づけ、21世紀の産業集積都市を目指すとしていましたが、最近はこうした立場を捨てて、IoT推進とグローバル企業中心の羽田イノベーション構想を進めてきたことが、仲間回し育成できなかったと見ざるを得ません。
●そこでお聞きします。これからは中小企業を守り発展させ、雇用を改善し、国内需要に応えられる大田区の発展を目指すべきです。そのためにも、技術の水準は高いが単機能生産しか持ち得ていないにもかかわらず、大田区全体が一つの工場を形成しているという母工場都市機能として大田区が位置づけ、後継者育成、自然エネルギー再生分野、障害者などの福祉の分野や農業分野、災害分野への取組に転換すべきです。お答えください。
【産業経済部長】
大半が中小企業である本区のものづくり産業の実態を踏まえますと、企業間連携を一層進め、生産効率性を高めていくことは大変重要な産業課題と認識しており、区はこれまで、区産業振興協会との役割分担の下、国や東京都などとも緊密に連携しながら様々な施策を展開してまいりました。一般的に企業は、社会的ニーズや世の中の潮流を捉え、継続的かつ計画的な経営判断の下に参入分野を見極めております。独立した経済的団体である企業が、ポストコロナ、ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応していくためには、企業が取り組む事業再構築を支援していくことが、これからの産業政策においては重要課題の一つと考えてございます。
国においては、今般、中小企業等事業再構築促進事業が予算化され、新分野展開や業態転換を目指す企業に対して新たなメニューが用意をされました。これは、まさに羽田イノベーションシティにおいて、新たな産業創造と発信に向けて取り組んでいる本区の経済政策が先駆的であることの証だとも考えております。区は引き続き、企業の独自性を尊重しながら、区内産業の発展とその先にある持続可能な地域社会の実現に向けて取り組んでまいります。
以 上